伝統芸能×福祉施設の交流活動をウエンツ瑛士さんがナビゲート「和の音色に心が躍る」
【PR/(公財)JKA】
「笛に息を吹き込むと唇に伝わる振動が心地よい。今までにない新たな感覚です」とは、人生で初めて笛を体験した俳優のウエンツ瑛士さん。福祉施設を訪問し、笛や三味線、琵琶など日本の伝統芸能による交流活動を行うNPO法人ACT.JTの取り組みを、ウエンツさんがレポート。実際に施設で演奏活動を行うプロの奏者をお迎えし、能楽堂の舞台で行ったスペシャルトークをお届けする。
プロフィール
俳優・ウエンツ瑛士さん
1985年東京都生まれ。4才から子役、モデルとして活動。2002年に小池徹平さんとの音楽ユニットWaT(ワット)を結成。音楽活動と並行し、ドラマやバラエティーなど幅広く活躍。2018年に渡英し本格的に演劇を学ぶ。舞台『オーランド』に出演するなど、舞台にも精力的に出演。コットンクラブで清塚信也さんとのリサイタルをするなど幅広く活躍。
ACT.JT/プロデューサー・赤坂明子さん
人間国宝・野村萬さんが代表理事を務めるNPO法人ACT.JTに所属し、日本の伝統芸能の普及や地域振興、海外交流などの活動を行う。https://act-jt.jp/
三味線奏者・山尾麻耶さん
ACT.JTの活動に参加する三味線奏者。6才より長唄三味線を始める。幼少期をフランスで過ごし、市川猿之助歌舞伎フランス公演に出演。東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業後、同大学院修了。駿河台大学客員准教授。国内外の演奏のほか、ドラマやCMの楽器指導や監修も多数。NHK連続テレビ小説『花子とアン』、大河ドラマ『平清盛』ほか多くの作品に出演・楽器指導を手掛ける。https://asachaya.com/
笛奏者・石森裕也さん
ACT.JTの活動に参加する笛奏者。9才の頃、祭囃子に魅了され笛と出会う。東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業後、同大学院修了。全国各地の例大祭で祭囃子を演奏するほか、篠笛教室や、お囃子バンドでのライブ活動も。テレビドラマの監修や出演も多く、NHK大河ドラマ『どうする家康』では楽器指導、『光る君へ』では演奏出演も。https://www.yuyaishimori.com/
伝統芸能の普及活動をウエンツ瑛士さんがレポート
――都内某所の能楽堂。笛奏者の石森裕也さん、三味線奏者の山尾麻耶さんは和の装いで、ウエンツ瑛士さんはペイズリー柄の雅なスーツ姿で颯爽と登場。
竹でできた漆黒の能管(能楽で使われる横笛)を構えた石森さんは、能舞台の始まりに演奏する『お調べ』を一節吹くと、舞台には力強い音色が響き――。神聖な松の木が描かれた鏡板をバックに、トークセッションの幕開けです。
ウエンツ瑛士さん(以下、ウエンツ):深く美しい音色が心に染みますね。何かが始まる感じがして心が躍ります。
こちらの能楽堂では、俳優仲間がシェイクスピアを演じていたこともあって、和と洋の融合もいいですよね。まずは、伝統芸能と福祉施設の交流事業について、どんなことを行っていらっしゃるのか、活動内容を教えてください。
赤坂明子さん(以下、赤坂):私たちは、伝統芸能の普及活動をする中で、これまで公演に介護・福祉施設の利用者やスタッフの皆さんをお招きしていたのですが、会場に来るのは難しいケースもあるので、施設に来てくれないかという声をいただくようになりました。
そこで、東京都社会福祉協議会東京善意銀行にご協力いただき施設を訪問する活動を企画し、この活動費にはJKAの補助事業を活用させていただいているんです。
競輪やオートレースの普及や発展を目指すJKAは、売上の一部で社会貢献を応援する補助事業を行っている。今年度補助事業の一つとして採択されたのが、ACT.JTの『〜邦楽いろいろ〜体験・鑑賞』プログラムだ。
赤坂:三味線や笛だけでなく、琵琶やお琴などの和楽器の演奏家たちが一緒に、介護施設や福祉施設、放課後等デイサービス、子育て支援施設なども含め、10か所を巡ってツアーをしているんです。ここからは、実際に訪問した奏者のお2人にバトンタッチします。
三味線をつま弾く利用者の姿、邦楽はロック!
ウエンツ:僕は、障がいをお持ちのかたでも楽しんでもらえるコンサートのMCを務めた経験があるのですが、たとえば耳の不自由な人でも座席の振動で音を感じられるようにするとか、そうした技術も進化してきていると思います。
だけどまず、その場に「出かける」ことには、さまざまな事情でハードルはあるでしょうから、伝統芸能に携わるみなさんが施設に“訪問”するということはとても意義のあることだと思います。実際に体験されたかたたちの反応はいかがでしたか?
山尾麻耶さん(以下・山尾):私と石森さんは、施設訪問の本番ではペアを組んで演奏とトーク、和楽器を体験していただくことが多いです。トークは漫才かといわれるほど熱が入ることも(笑い)。
演奏する前は「いやだ~!やりたくない~」と言っていたお子さんが、演奏を聴いた後、楽器に触ると「もっとやるー!」と言ってくださって、“ハートを掴んだ!”と嬉しくなりました。
ある高齢者施設では、たまたま三味線を生業にしていた同業者のお姐さんが参加されていたんです。三味線をお渡しすると、突然背筋がぴんと伸びて凛々しい姿で奏で始めて、施設のスタッフさんも驚かれていました。
ウエンツ:いくつになっても音楽を体が覚えているものなんですね。石森さんは、いかがでしたか?
石森裕也さん(以下・石森):邦楽は伝統的でかしこまったイメージがあるかもしれませんが、結構自由にセッションを楽しめるんですよ。
この音は何でしょうかというクイズで、笛と太鼓で「ヒュ~~ドロドロトロ」という音を奏でると、「お化けの音!」って子供たちは大盛り上がり。
ある介護施設では、遊びに来ていた入居者のお孫さんがピアノが得意だということで、3人でセッションしたこともありましたね。
山尾:そうそう邦楽は自由(笑い)。三味線で奏でる唄は、庶民の心の叫びを届けるものですから江戸時代のロックやパンクなんですよ。利用者さんのリクエストに応えて演歌やポップスもやりますし、コール&レスポンスも巻き起こり施設はさながらライブ会場でした。
ウエンツさん、人生初の笛&三味線体験
ウエンツ:それはなかなか熱いですね(笑い)。日本の伝統的な音楽っていうのは、日本人のDNAに刻まれているものだと思うんですよ。遠くから聞こえてくる音色に、自然と心が沸き立つのを感じます。
石森:そうそう、祭囃子ですね。私は全国の祭囃子を調査研究しているのですが、音色やリズムには地域差があるんですよ。地元の囃子の曲がかかると、皆さん慣れ親しんだ音色に「おお」と表情が変わります。
私は幼いころ聞いた祭囃子が忘れられなくて、喘息を克服する目的で肺を鍛えるために笛を始めたんですが、いつのまにか喘息は克服していました。ウエンツさん、ちょっと吹いてみませんか? これは篠笛(しのぶえ)といってシンプルな横笛です。
ウエンツ:はい。小学校のリコーダーしか吹いたことがないですし、ギターは弾きますが三味線は人生初。
初めて和楽器の存在を意識したのは、映画『ゲゲゲの鬼太郎』(2007年)のとき。忘れられた和楽器たちが妖怪化して、「三味長老」(しゃみちょうろう)や「琵琶牧々」(びわぼくぼく)と戦いました(笑い)。鬼太郎ではオカリナは吹いていましたけど、できるかな…。
石森:唇を横に引く感じで、フルートのように、唄口に息を吹きかけてみてください。篠笛の場合、左手は指先でいいのですが、右手は第一関節と第二関節の中間で押さえます。
(ウエンツさんの笛の音が太く響く)。
さすがですね! 初回からこの音を出せるのはなかなかすごいです。
ウエンツ:笛の中に入った空気が、中で回っている感じもあります。音が出ると全体が振動し、唇にも伝わってきますね。その響きも気持ちいいですね。
山尾:さあ、では三味線もやってみましょう。正座をして、左手に「指かけ」を装着して棹(さお)を持ち、三味線の「胴」と呼ばれる部分を膝にのせて構えます。右手で「撥」(ばち)をもって弦を鳴らしてみてください。
山尾:やっぱりギターの経験があるかたは、感覚をつかむのは早いですね。和楽器の才能がありそうですよ。
ウエンツ:いえいえ、もうこの姿勢だけで背中が辛いです(笑い)。ギターのようにフレット(指板にある隆起で音を出す目安になる印)がないのですね。どこまで抑えればいいかわかりません!
これ楽譜ってあるんですか?
山尾:棹の上の部分に小さく微かに印はあるのですが、基本的にはありません。また三味線は、一応譜面はありますが、元々口伝で伝わったものなので、プロの演奏家は基本的には覚えて身体に落とし込んで暗記して弾けるまでお稽古をします。
ウエンツ:そうなんですね、難しいわ~(笑い)。こうして音を出してみて生で聴くとなおさら、暖かく優しい響きですよね。笛も三味線も、和楽器ってなんだか音が揺らぐ感じが心地いいんですよね。狙った音だけじゃないというか…。
山尾:日本は湿度があるので、音にも土地の湿り気のようなものがありますよね。西洋の楽器、たとえばドラムなら「パーン!」と乾いた音が出ますが、邦楽の打楽器は音の余韻のようなものがありますね。
日本の風土ならではの独特の音色
山尾:私はフランスで生活をしていたとき、日本文化に渇望したというか。海外で暮らしたからこそ日本の古典的な音を欲して、これを広めたいと感じたんです。ウエンツさんは、海外で演技を学ばれていましたが、音楽との触れ合いはありましたか?
ウエンツ:僕はイギリスに留学していたのですが、教会では毎日のように讃美歌が流れ、野外音楽堂も随所にあります。大道芸人が道々でパフォーマンスを披露しており、伝統的な音楽や生演奏(ライブ)と暮らしの距離が近いことを感じました。
一方で、日本の伝統的な音楽というのは、なかなか耳にする機会が少なくなっていると感じます。
石森:たしかにそうですね。ですが、本来、神社で奏でられる生演奏は生活に即した音色なんです。祭囃子しかり、お正月に流れるお琴の音色、結婚式に流れる雅楽など、聴けばわかる曲も多いんです。昔からよく知っている音色なんですよね。だからもっと気楽に邦楽の世界に触れてほしいと思いますね。
山尾:平安時代から室町時代にかけて日本全国で流行した「田楽(でんがく)」は、貴族や武士、庶民の区別なく誰もが参加できた地域の祝祭です。現在は「大田楽(だいでんがく)」として海外での公演なども行われています。
ウエンツ:大田楽もとても興味深いですね。現在でいう野外フェスみたいな感じでしょうか。邦楽は厳かな感じがして、とっつきにくいものだと思っていましたが、実際に楽器を体験してみたら、とても身近に感じました。
僕は母とは老後について話をすることもあって、施設の暮らしも考えたいという母のために、高齢者施設を見学したことがあるんです。思っていたよりもずっと皆さんイキイキと生活されている印象でした。音楽に触れられるというのはさらに生活を豊かにしてくれそうですね。
山尾:たしかに私たちが訪問して音を奏でるとみなさん自然と体が動いて、高齢のかたも障害をもつお子さんたちも、楽器に触れることでだんだん表情がイキイキしてくるのがわかるんですよ。
ウエンツ:僕も今日は楽器に触れて、とてもわくわくしました(笑い)。福祉施設との伝統芸能の交流、こうした活動はどんどん広まってほしいですね。
JKAさんの補助事業は今回初めて知りました。誰もがエンターテイメントを楽しめるようになることを願う僕らとしても、とても心強い活動だと思いました。もっと広く知られるようになるといいですよね。
実は僕は芸能界に入る前、競馬の騎手を本気で目指そうとしていた時期があって、幼い頃は競走馬が走る姿をテレビで見て「行け~!」って熱くなっていました。競輪やオートレースにも共通する興奮を感じますね。
石森:ウエンツさんが騎手を目指されていたとは、それはとても意外ですね。
山尾:三味線も笛も、飲み込みが早いのはさすがでした。私も石森さんも大河ドラマなどで俳優さんに和楽器の指導や監修をさせていただくことがあるので、いつかご一緒に作品を作る機会があるといいいですね。
ウエンツ:ぜひ熱いセッションを!まずは正座から体得しなくては(笑い)。本日はありがとうございました。
公益財団法人JKA
競輪とオートレースの補助事業を紹介するウェブサイト「CYCLEーJKA SOCIAL ACTION」
NPO法人ACT.JT
伝統芸能による福祉施設との交流事業「~邦楽いろいろ~体験・鑑賞」など、古典芸能をはじめ日本文化による人的交流・地域活性化・国際的文化共有を目的として活動する
撮影協力/新宿歌舞伎町能舞台 ヘアメイク/田中誠太朗 スタイリング/作山直紀 撮影/宮本信義 取材・文/前川亜紀