倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.52「昭和の男」
倉田真由美さんの父親は3年前に他界。現在、母親はひとり暮らしをしている。叶井俊太郎さん(享年56)と結婚し、夫婦関係を築いてきた今、改めて母と父の関係性を振り返り、モヤモヤモヤすることがあるという。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
亡くなった父は「昭和の男」
一昨年他界した私の父は、いわゆる「昭和の男」でした。
「俺の飯は」
これ、子供の頃から何度聞いたかわかりません。食事内容にはまったくうるさくない人だったけど、ともかくご飯は母に用意して欲しい人。もちろん食事だけではなく、基本的にどこへ行くにも何をするにも母頼りな人でした。
それでも現役で働いている時は父は昼間家にいないので、母には自由な自分だけの時間がありました。内向的で人嫌いな父とは違い、母は社交的で友だち付き合いが大好き。子育てや家事などの合間に、たまに習い事をしたり近所の奥さんたちとお茶を飲んだり隙間時間を有効活用していました。
しかし父が定年退職してからは事情が変わってきました。四六時中父が家にいて、母から離れないからです。
「買い物もゆっくりできんのよ」
母は、よく嘆息して言いました。友だち付き合いも、ご近所であってもなかなか簡単に時間を作れません。他県に住んでいた母の母、私の祖母が倒れた時も本当は母はもっと顔を見に行きたかったはずです。
母は、自分の母親が大好きでしたから。でも、父が渋るために叶いませんでした。祖母が亡くなった時、母は心残りがあったと思います。
父の他界後の母は…
父が亡くなった時、母はもちろん悲しみましたが、しばらくすると花が開いたように快活になりました。体操教室や川柳教室など習い事を3つも4つも始め、友だちとランチだ旅行だと飛び回っています。
「毎日忙しいんよ」
母は嬉しそうに言います。
「そうか、好きなこといっぱいしたらいいよ」
と言いながら、私は子どもとして少し複雑な気持ちもあります。もし父より先に母の方が死んでいたら母はやりたいことを全然やれないままだったはずです。父が先だったのは偶然に過ぎません。
私はそういう結婚ではなかったから、夫がいてもやりたいことは全部していたから、余計にモヤモヤしてしまうのかもしれません。
配偶者のために、しなくてもいい我慢をして生きることをやめる人がもっと増えたらいい。自分の人生を、自分のために生きて欲しい。配偶者への恨みや心残りを溜めないためにも、そう思います。
倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」を最初から読む
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。