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健康

《長嶋茂雄氏を支えたリハビリ名医が伝授》ミスターの回復を間近で見て感じた「筋肉の重要性」 ”95歳でもシャキシャキ歩ける”を目指す「サコーメソッド」とは?

 歳とともに足腰は衰え、歩くことが難しくなっていく。だが、「最後まで介護を必要とせず自力で動くことはできる」と断言するリハビリの名医がいる。脳梗塞を患った長嶋茂雄氏の治療とリハビリを支えた経験を元に生まれた、「95歳でもシャキシャキ歩ける」革新メソッドを伝授する。

まだ動く左半身を徹底的に鍛えた長嶋茂雄氏の「特別なリハビリ」

 平均寿命よりも約10年間も短いとされる「健康寿命」。体を思うように動かせない状態で、長い時間を過ごす人は多い。

 ねりま健育会病院病院長・脳科学リハビリテーション医で7月に『健康寿命95』(徳間書店)を上梓した酒向正春医師が言う。

「日本人の平均寿命は男性82歳、女性88歳ですが、最も死亡者が多いのは男性89歳、女性93歳です。このラインを超えるためにも、まずは95歳まで健康で生きることを目標にしてほしい。そんな願いを込めて作った概念が『健康寿命95』です。これまでの治療経験から、95歳でも自力で歩くことは実現可能な目標だと実感しています」(酒向医師。以下「 」内同じ)

 酒向医師の高齢者施設でリハビリ治療を受ける人は平均年齢90歳前後、100歳で運動をしている人も珍しくない。

「PPK(ピンピンコロリ)という言葉があるでしょう。病気や認知症に苦しむことなくコロッと亡くなることを指しますが、私の場合はピンピンキラリ。ピンピンし、キラリと人生をまっとうしていくという意味でPPKと言っています」

 酒向医師が考案した「サコーメソッド」により多くの患者が95歳を超えてなお自分の足で歩き、「PPK」を実践するが、その具体的な健康法を解説する前に触れておきたいのが、サコーメソッド誕生に大きな影響を与えた長嶋茂雄氏との出会いだ。

 2004年、長嶋氏が脳梗塞で倒れた際、大学病院の脳神経外科医として急性期治療を担当したのが酒向医師だった。その後、「人間力を回復させる医療がしたい」とリハビリ医に転身し、新たな勤務先でリハビリ通院中の長嶋氏と再会した。

「ミスターのほうから先生お久しぶりです、と声をかけてくださいました。今思い返してもミスターのリハビリは特別でした。ご自身の体をもっと良くされたいという思いが非常に強く、麻痺が残った右半身を中心にリハビリを行なう一方、麻痺のない健康な左半身をアスリートばりのトレーニングで鍛えたのです」

 諦めず、動かせるところを鍛えようとする長嶋氏の姿勢に酒向医師は感銘を受けた。

「もう一度元気な体を手に入れるためなら、どんな努力も惜しまない人でした。何にでも興味を持たれ、ミスターが求めるアプローチをスタッフが支える形でリハビリは進みました。その結果、ミスターはどんどん元気になっていったのです。

 それまで体の悪い部分を治すことばかり考えていましたが、ミスターのリハビリを支えるなかで、自力で動かせる健常部分を伸ばすことで体全体が健康になっていくことを実感したのです。障害があっても、年齢を重ねても、努力すれば体と脳は応えてくれるのだ、と」

 この経験から得た発想がサコーメソッドの考案に繋がったという。

「ミスターの回復を間近で見て痛感したのが筋肉の重要性です。やはり体の土台を作り、元気の源になるのは筋肉量。筋肉を増やせば体が元気になり気力も漲る。医学的にも『脳筋連関』と言われ、筋肉を鍛えることでマイオカインというホルモンが分泌されて脳や全臓器、骨を刺激する。いかに効果的に筋肉を鍛えて健康寿命を延ばすかを科学的に追求したのがサコーメソッドなのです」

<キャプ>長嶋茂雄氏が気付かせてくれた「良いところを伸ばす」リハビリ発想

サコーメソッドを続ける4つのルール

【1】「まずは5分から」無理なく毎日の習慣に

【2】「ストレッチは30秒」毎日痛みのない範囲でゆっくり

【3】「筋トレは週2~3回」少し張りが残るくらいで

【4】「筋肉の張りを保つ」切らさず続けることが大切

動ける首と肩、支える腰、歩ける太もも 4大部位から体幹を育てるストレッチ

 筋肉量は何もしなければ50歳を過ぎると毎年1%ずつ減るとされる。

「ケガや骨折など明らかな原因のある急性期の痛みは別として、慢性的な痛みは筋肉量低下が背景にあるケースが多い。まずストレッチで緩めて、筋トレで体を支える筋肉をつけることが大切です。ストレッチは毎日、筋トレは週3回行なうのが理想的。5分から始め、徐々に50分まで時間を延ばしましょう」

 ストレッチや筋トレにはコツがあり、例えば「1、2、3…」と勢いをつけてストレッチしても効果は期待しにくいという。

「どの部位のストレッチも伸ばした状態で30秒キープするのが基本。1回でもいいので、その30秒を丁寧に気持ちよく行ない、しっかり伸ばすことで効果が期待できます」

 酒向医師が重視するのが首・肩・腰・下半身という4つの領域だ。

 首のストレッチはイスに座って行なう。頭を右側に倒して首を伸ばし、次に右手を左側後頭部に添え、頭を斜め下に。手を変えて反対側も同じように行なう。

「首は腕の力で引っ張るのではなく、頭の重みで優しく伸ばすこと。首や肩のこりが軽減し、首の可動域も広がります」

 肩関節周囲のストレッチは、壁を利用するとやりやすい。壁から少し離れて立ち、バンザイの姿勢で壁に両手をついて肩関節が最大限に伸びるのを感じながら30秒キープ。

 肩関節を緩めたら、上半身の筋トレの実践も忘れてはいけない。

「ストレッチで一度楽になっても、それだけではまた痛くなる。腹筋・背筋を鍛えて“支える力”をつけることが大切です」

 これに効果的なのが壁を使った腕立て伏せだ。壁を利用すれば20~30回の腕立てが無理なくできる。

動ける首・肩を作る

【ストレッチ】《緩める》首周囲

【1】イスに座り、片手でイスの背もたれをつかむ。反対の手を頭に添え、頭を横へ倒して首を伸ばす

【2】片手を後頭部寄りに添え、頭を斜め下へ倒す。左右とも行なう

《Point》各30秒

腕の力でグッと引っ張らず、頭の重みで優しく伸ばす

【ストレッチ】《緩める》肩関節周囲

【1】壁から少し離れて立ち、壁に両手をついて、肩関節が最大限伸びるのを感じながら30秒

【2】続いて片ひじを90度に曲げて壁につけ、肩関節を外側へ伸ばす。肩甲骨を背中に寄せる意識で30秒。反対側も同様に行なう 

《Point》各30秒

肩関節が伸びている感覚を意識 

【筋トレ】《支える》壁腕立て伏せ

【1】壁から50~60cm離れて立つ

【2】壁に手をつき、腕に体重をかけながら、ひじを曲げ伸ばしする。20~30回で30秒休憩し、3セット行なう

《Point》

肩・腕・胸・背中など上半身を支える筋肉を意識する

股関節を意識する

 腰や体幹の筋肉(脊椎・脊柱起立筋群)や関節をほぐす際はローラーを利用しよう。仰向けになってローラーを腰の下に置き、体重をローラーに預けながら、腰から背中、首までゆっくり30~60秒かけて往復する。

 さらにローラーを腰の下に置いてお尻を上げ、両ひざを抱えて30秒キープすれば、骨盤と腰椎の関節周囲の筋肉をほぐし腰痛をとることができる。

 また、高齢になると背中が丸まり前屈みの姿勢になりがちで、転倒のリスクも増す。それを避けるには、体を伸ばす動作時に使う伸展筋(背中やお尻、太ももなどの筋肉)を鍛え、姿勢を改善することが欠かせないという。

 効果的なのが体幹の腹筋訓練と背筋訓練だ。仰向けに寝て、ひざを立て行なうのが首上げ腹筋。ゆっくりと上半身を起こし、おへそを見てからゆっくりと戻る。

「腰を浮かさないので、腰への負担を軽減しつつ腹筋を鍛えられるのが利点です。背筋訓練は、うつ伏せの状態から上半身を浮かせるイメージで。首を反らしすぎると痛める原因になるので、視線を前方に向けるのがポイントです」

 さらに酒向医師が重視するのが、下半身のストレッチと筋トレだ。

「年齢とともに股関節が動かなくなり、歩きにくさやバランスの悪さを感じやすくなる。転倒にもつながるので、まず股関節を意識してください」

 床に座って脚を伸ばし、大きく開く。片方のひざを曲げて床につけ、反対側の脚を前方に出してひざを伸ばし、股関節を緩める。

「さらに体を左右に向けることで、骨盤を前に傾けたり股関節を曲げたりする時に働く腸腰筋を伸ばすことができる。腸腰筋と股関節のストレッチで姿勢が良くなり、歩行がスムーズになります」

 下半身を緩めた後の筋肉強化は、スクワットが有効。ワイドスクワットなら内転筋が一層強化される。

「内転筋は骨盤の安定や歩行時のバランス保持などに重要な役割を果たす筋肉です。両脚を大きく広げて行なうことで、股関節の柔軟性向上に繋がります」

 いずれの運動も無理は禁物。できる部位、できる回数から楽しく始めるのが肝要だ。

腰を緩めて「支える体幹」を作る

【ストレッチ】《緩める》

《1》脊椎・体幹伸展

【1】仰向けになり、フォームローラーを首の下に置く

【2】ローラーに体重を預け、首→背中→腰にかけてゆっくり30~60秒往復する

《Point》

背骨が緩やかなカーブになるように伸びることを意識 

《2》腰屈曲

フォームローラーを腰の下に置き、お尻を上げ、両ひざを抱え込んで30秒キープ

《Point》

腰の筋肉が気持ちよく伸び、腰が楽になる瞬間を感じる 

【筋トレ】《支える》

《3》体幹の腹筋訓練

【1】うつ伏せになる

【2】お腹に少し力を入れながら、両肩甲骨を床から浮かせておへそを見るように起こし、ゆっくり戻る

《Point》30回→30秒休憩、3セット行なう 

腰を浮かせないため、腰への負担を抑えて腹筋を鍛えられる。 30回できなければ、できる回数で構わない

《4》体幹の背筋訓練

【1】仰向けでひざを立て、両手を組んでお腹に置く

【2】両手を背中に置き、胸を張り、背筋を伸ばして上半身をゆっくり起こして、ゆっくり戻る

《Point》30回→30秒休憩、2セット行なう

首を反らしすぎない。視線は前方へ。できる回数から始め、徐々に30回を目指す

最後まで歩ける下半身、お尻、太ももを作る

【ストレッチ】《緩める》

《1》股関節と腸腰筋の左右伸展

【1】床に座って背筋を伸ばし、脚を左右に大きく広げる

【2】右ひざを曲げて床につけ、左脚を前に出してひざを伸ばす。身体を左へ向け、右の骨盤を開いて、右股関節と太ももの付け根を伸ばす

《Point》反対側も同様に。正面・左右それぞれ30秒行なう

太ももの付け根が伸び、股関節が伸展する感覚で行なう 

【筋トレ】《支える》

《2》ワイドスクワット(筋トレ)

【1】脚を肩幅の1.5~2倍に開き両腕を重ね、つま先は可能な範囲で外側へ向ける

【2】背筋をまっすぐ伸ばし、お尻を真下に向けて、腰をゆっくり下ろす。太ももと床が平行になる程度が目安 

《Point》30回→30秒休憩、3セット

特に太もも内側の内転筋を鍛える。30回できなければ、できる回数で構わない

五感を意識して精神も健康に「7つの心のトレーニング」

 酒向医師が掲げる「健康寿命95」を実現するには、体だけでなく「心の健康」が不可欠だ。

「体が整ったのち、心を整えて脳を元気にすることが大切。それが認知機能を刺激し、認知症予防につながる。なんとなく毎日を過ごすのではなく、意識して人生を楽しむ計画を立ててください」

 そのために実践したいのが、酒向医師が考案した、「7つの心のトレーニング」だ。

「まずは1日1回、楽しいことを予定に入れましょう。旅行や映画、散歩、読書など、楽しいことは人それぞれ。私は大谷翔平選手が大好きなので、彼の試合を見るのが大きな楽しみになっています」

 日常のなかで「気持ちいい」「心地よい」と感じる時間が長いほど、脳の若さが保たれる。特別なことを求めなくても、季節の今を感じる、風の音を聞き感じる、旬のおいしいものを食べるなど「五感を意識することで心は元気になる」と酒向医師は言う。

「会いたいと思える人がいること、実際に会いにいくことは、生活に活気をもたらします。身だしなみを整え、待ち合わせの場所に向かう。気の合う友人とおしゃべりし、お茶や食事を楽しむ。そのたびに脳が活発に働き、記憶力や意欲の向上に役立ちます」

 さらに酒向医師が推奨するのは「80歳でも楽しく働く」ことだ。

「私は80代で8割の人が就労できる暮らし、希望すれば仕事や家事を続けられる社会の実現を提唱しています。緩く働くことは最高の脳トレになる。仕事を辞めて何もしなくなるのではなく、できる範囲で頭と体を使う。働くことは居場所づくり、生きがいづくり、役割づくりにもなります」

 長嶋氏もまた、「心が健康だった」と酒向医師は振り返る。野球界の発展や後世の育成に生きがいと役割を感じていた長嶋氏は、図らずも心のトレーニングができていたのだという。

「懸命なリハビリはもちろん、その先に待っている日々がミスターを支えていたのだと思います」

 体と心に正しくアプローチできれば、「ピンピンキラリ」は実現できる。

◆教えてくれた人/ねりま健育会病院病院長・脳科学リハビリテーション医・酒向正春医師

※週刊ポスト2026年9月11日号

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